事例
BtoB企業にとって、新規顧客を獲得するためにデジタルマーケティングの導入が欠かせません。 しかし、歴史のある大手企業ほど、デジタルマーケティング導入のハードルが高く現場担当者の苦労の声が絶えないという現状があります。 そこで今回は、デジタルマーケティングを導入し、試行錯誤を経て実際に成果をあげているBtoB大手企業A社の事例を、現場担当者の声とともに詳しくご紹介し、課題解決のヒントを探ります。
A社プロフィール:老舗製造業を営む、社員数千人規模の大企業
担当者様 職位:企画課所属にてデジタルマーケティング業務を兼任、デジタルマーケティングの必要性を社内に説きプロジェクトを推進中
A社のデジタルマーケティングの取り組みのきっかけは、企業サイトの改修から始まりました。 改修のための情報収集を進めるなかで、ユーザーの行動分析データからサイトのデザインやコンテンツ内容を改善し、その知見を社内で共有し活用していくべきと日々感じていました。 また、引き合いの取れるサイトにしたいという強いニーズが社内にあったことから、デジタルマーケティングの強化の必要性を認識するようになったそうです。
施策実行にあたり、同時期に社内に設立されたインサイドセールス部門と連携していくことになりました。 インサイドセールスの担当から情報を聞き取りながら、デジタルマーケティング施策によって得られたデータを共有することで営業活動をサポートしつつ、事業部主体での連携を模索していたそうです。
「デジタルマーケティング施策を最優先課題であると考えた理由は、会社として 新規顧客の獲得に課題があり、特にWebを通じた製品訴求や認知拡大のための施策が弱いと感じ、その必要性を強く感じたためです」
「他社がCMを使ったプロモーションを華々しく行い、Webサイトも魅力的に展開されているのを見て、焦りを感じるようになったことも要因の一つです。 魅力に乏しく使いづらい自社サイトではリード獲得は難しいため、急ぎ改善の必要性を強く感じました。 さらに、コロナ禍により対面での営業活動をしづらくなったことからデジタルマーケティング施策への需要がより加速しました」
「デジタルマーケティング施策実行に際しすべての企画に対して、社内上層部から、受注はいくら取れるのか、売上にどうつながるのかということを短期的なスパンで求められていたことから、いかに企画を通すかの工夫が必要でした」
そこでマーケティング担当者が調査のうえ、デジタルマーケティング施策によって引き合いを増やし、受注数増を目指す、というような数値的な目標・計画とともに企画を社内提案することに。
「当時、デジタルマーケティングに対する社内の認識が浅く、専門用語などが通じない状況のなか、プロジェクト担当者として経営層に向け、施策による効果をどれだけ伝えられるかという点が課題でした」
デジタルマーケティングの支援企業の選定や社内調整、説得に時間がかかったが、プロジェクトの必要性などを社内に広め少しずつ理解を得ていったのだそう。
「短期的なスパンでの売上につながる成果を求める経営層への説得材料として、デジタルマーケティング施策においてどのようなKPIを設定し達成するか、商談件数がどのくらい増えるかという数値目標とともに企画を提示することがポイントです」
「施策実行にかかる外部委託費などのコストに対して、内製化を視野に、コスト削減の必要性を上層部から指示されていました。 また、施策におけるノウハウを蓄積し他の事業部にもデジタルマーケティングの知見を共有するということも意識し行動していました」
デジタルマーケティングの多岐にわたる施策のなかで、A社の事業との相性の良さを鑑み、BtoB企業の多くが取り組むコンテンツマーケティングを施策の中心に据えることを決定されたそう。 オウンドメディアサイトへの検索流入の増加とそれに伴うリード情報の獲得を目指し、かつ、インサイドセールスや営業活動のプロセスのなかで活用できる質の高いコンテンツづくりに注力することになったそうです。
コンテンツマーケティングを実際に始めてみると、自社製品に関連するキーワードが、想定よりも検索ボリュームが大きいということが調査で判明するなど、施策に対して社内の期待値が上がったそうです。
反対に、外部のマーケティング支援会社とのやりとりのなかでは、専門性が高く高額な自社製品の特長を理解してもらうことに難しさを感じたとのこと。 また、大量に生成される記事やホワイトペーパーなどのコンテンツの確認作業に人的リソースと膨大な時間が必要であるということも、実行して初めて実感したことなのだとか。
「社内にコンテンツ制作にまつわる知識を持った人材が不足していたことから、実際の運用段階で苦労しました。 専門性の高い製品だからこそ、制作や確認作業をすべて外部に委ねるのは難しく、自社の人的リソースを使った確認作業が必要であることが分かりました。 もっと一般的な認知率が高い製品であれば状況は異なるかと思いますが、支援会社の意見を参考に、より良い制作フローを模索していく必要がありました」
施策のなかでは、競合他社のWeb施策を調査することによって自社製品の立ち位置や特長を再認識することで、製品の優位性などを捉え直しコンテンツに反映していったそう。 製品の市場優位性を明確に示せたことで、営業活動にもプラスに働き、デジタルマーケティング施策の効果を実感したそうです。
また、製造業向けの製品選定のポイントをまとめたホワイトペーパーが営業活動に役立ち営業チームから評価されたことも、効果的と感じたポイントのひとつだとか。
「プロジェクト開始当初はセッション数やCV率の伸びが見られなかったものの、コンテンツのテーマや内容の充実度合い、デザイン性の高さなど、施策前までにはなかった質の高いコンテンツができたことに関して、社内でも施策に対する期待が高まるようになりました。 特に、アクセス数や引き合いの数などの数値的な成果が見えづらい初期の段階では、コンテンツの質を上げ活用の幅を増やす方法によって、施策の有用性をアピールしていました」
ホワイトペーパーの他にも提案資料など、営業が毎日使うツールの質が上がることで施策に対する社内の評価が上がりやすいと感じたそうです。
「コンテンツの質を評価されるポイントとしては、一般論や製品説明書に書かれていることだけではなく、実際に製品を使い運用してみた使用感や具体的な評価などが情報として加味されているかどうかという点です。 評価の高い資料は、各支店のトップセールスなどキーマンに届けることで、組織全体への評価の高まりと認知の広がりを期待できます」
A社ではデジタルマーケティング施策推進にあたり、営業現場との意識のズレを回避するため、積極的にコミュニケーションを図ることを大切にしていたそうです。 プロジェクトメンバーに営業出身者が複数人いたことも効果的なポイントだったそう。
「今回のプロジェクトは、インサイドセールスと営業部、マーケティング部と広報部のそれぞれからメンバーをアサインしたうえで相互協力体制を敷き、施策を実行していきました。 プロジェクト推進のためのコミュニケーションのポイントとしては、良いことも悪いこともごまかさず議論していくということです。 例えば、コンテンツマーケティングによって引き合いが増えたと部分的に成果を誇張することよりも、商談化率や受注率の改善にどう影響しているのかを具体的な数値として示し、施策の全体像をデータを基に正確に捉え評価することが重要です」
そのほか、施策進捗を全社員が閲覧できるデータベースに載せ共有・更新したり、デジタルマーケティングに関する社内勉強会を開いたりなど、全社への理解と学びを促す機会を設けるなどの工夫も。
「デジタルマーケティング施策における今後の課題は、コンテンツ制作の社内の知見やスキルを高めて内製化を進めることです。 内製化できる範囲と外部の支援が必要な範囲の見極めが重要だと感じています」
「アクセス数の母数を増やしコンテンツからのCV率を高めて、商談化率を上げ売上につなげていくという流れをいかにスピーディーに作っていくことができるか、という点が大きな課題です。 それらを具体的な数値として経営層へ報告していくことで、プロジェクトが認められればより施策を実行しやすい環境が実現するでしょう」